【第23章】新芸能のプレゼン

第1章で述べたように、僕は、もともとゲーム制作会社の人間だ。このゲーム業界の歴史の中で家庭用ゲームの市場が伸び悩み、ことごとく低迷する時期があったのだ。もちろん我々制作会社は、仕事を次々と失い、パチンコやスロットの開発に手を出す会社も珍しくはなかった。そんな低迷期に携帯ゲーム産業が登場してくるのだ。

今でこそ、開発技術はWEBやネットワークを利用するものだと認識するだろうが、当時は、この2つの技術は対立していると言っても過言ではない。

歴史あるノウハウとスキルを培ったクリエイターを抱えた家庭用ゲーム会社が、少人数で作った簡単な携帯ゲームを作る会社に、完敗していくのである。

僕は、ここで会社経営者として舵取りに失敗する。新参者の携帯やネットワークを強く否定し、例のごとくやられたのだ。今考えたらバカな選択ではあるが、これほどまでに携帯やモバイル市場が伸びるなど、誰も思わなかった。

当時、ゲーム業界では、
「やばい!ゲームをする人間が居なくなってきた」
「もうゲーム産業も終わりだ!」
「ゲームなんてもう誰も買わない時代だ」
「あんな携帯ゲームなんかゲームじゃない!」
と。

今これとまったく同じセリフを述べている方々が居る。それが、芸能界、音楽業界の方々だ。

「やばい!TVを見る人がいなくなってきた」
「もう芸能・音楽業界は終わりだ!」
「CDなんて誰も買わない時代だ」
「あんなYoutuberなんて芸能じゃない!」

僕にとっては、デジャブにすら感じるくらいなのだ。

ところが、ゲーム業界、今、どうだろうか?スマートフォンの普及により、僕らの時代より何十倍の市場に膨れ上がっている。あの時期に会社が倒産したのは、僕を含む、この新しい時代を受け入れなかった会社だけなのである。

これをなぞるなら、今は、芸能も音楽も過渡期であって、何らかの形を変え必ず、落ち着いてくる。
つまり、芸能や音楽も、はやくそれに気がついたもの勝ちであるのだ。

そこで、芸能をWEBメディアに進出させるための企画を立てた。TVとは違う角度から切り込んだ番組を作り、ファンやリストを確保するモデルだ。

この企画を浅井企画の川岸専務に相談しに行った。

僕は、浅井企画にお邪魔し、川岸専務に企画を渡してプレゼンした。しかし、さすがである。川岸専務もこの流れは先読みしており、この打開策を考えているところであった。(まだ、この時はLINELIVEやFRESH!やAmeberTVも、存在しない時期の話である。)

僕は、川岸専務に言った。

「専務!この企画を欽ちゃんに説明させてください。僕らが子供の頃は、欽ちゃんがバラエティーの基盤を作ったと言っても過言ではない、その基盤を作った方に、今一度、新しい基盤を作っていただきたいと願っています」と

専務は、決断も早い。

「よし、わかった俺から話しとくよ!」

ここから、実際に、萩本欽一さんと出会うまでには少し時間がかかる。
やはり大御所だから、一筋縄にはいかない。その間、マネージャー陣営からいろいろな試練や課題をいただいた。何度も何度も打ち合わせを重ね、課題を改善していった。その間、作った資料は、山のように机に積み重なっていった。

そして、欽ちゃんのマネージャーから連絡が入る。

マネージャー「今井さん!次の土曜日の15時空いてる?その日に大将と打ち合わせしましょう」

今井「はっ!はい!!!」

とうとう出会える日が現実に訪れ決まったのだ。
やばい、現実味を帯びた瞬間に、急にびびりはじめる。
よく考えたら、僕がなんだというのか、あの欽ちゃんにプレゼンするなんて・・。

会う前に、関係者一同に忠告されていた。
「あの有名な俳優の○○さんですらお願いしても、断ったと言われてる欽ちゃんだよ。今井くんの話なんか、聞くわけないじゃん・・・。」

たしかに・・である。

そして、その日は、来た。僕は、欽ちゃん所有の自社ビルに行き、エレベーターに乗ると最上階行きのボタンを押した。

やばい・・緊張の限界である。
ああ・・ドアの前についた・・この窓の向こうに欽ちゃんがいる。

トントン!「失礼します!!」僕は、勇気を振り絞り、ドアを開けた・・。

すると、そこにはあの欽ちゃんが、ソファーに座りながら、遠くの窓を見つめていたのだ。

緊張がピークに達した時、自分の中で、こう言い聞かせた。
「おまえは、エビの卵を盗んで食ったろとあの状況から比べたら大丈夫だ!落ち着け!」
た・・たしかに。

そして、欽ちゃんが「どうぞ」と言ってくれたので、まるで面接でも受けるように、「失礼します!」と再度、大きな声で返事をして、僕も、対面のソファに座った。

欽ちゃんは、こう言った。

「どうも、萩本欽一です」と

いやいや!わかっとるわ!と心の中で、パニック気味にも突っ込んだ・・(笑)。

そして、あの欽ちゃんを目の前にすると、また涙腺が緩んで来て涙がこぼれそうになったのである。

自殺を試みたあの公園で、踏みとどまって頑張った結果。なんと、欽ちゃんのところまで本当に来たよと。しかし、今回は、そんな余韻に浸ってる場合ではない!

いかんいかん!と気を引き締めて、手が震えながらもカバンから資料を取り出し、欽ちゃんに渡した。

そして、僕は、いきなり戸惑った。

「あれ?本人に、欽ちゃんって言っていいのかな? 萩本さん? 大将? え?やばい・・考えてなかった。」

少し考えて、こう言った。

「欽ちゃん!まずわねぇーー!!この資料なんだけどお!!」

僕は勝負に出た。(笑)


第24章につづく・・・・。

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