【第3章】憎悪の芽生え

僕は、その知人から某大手銀行の社員と名乗る男と接触した。

その男は清潔なスーツに身を包み、笑顔はさわやかで、なるほど、さすが大手銀行に勤める人間は違うなと関心さえした。

そこで笑顔でこう言われた「あなたの会社大丈夫です。お任せください。」と。

もう、命の灯火さえ消えかけそうだった中、この言葉は本当に救われた一言だった。

「ありがとうございます!お願いします!助けてください!」僕は、プライドも捨て本当に泣きながら土下座した。

これで会社も家族も仲間も守れる。

そう思うと何とも言えない安心感が込上げて感情が止められなかったのだ。

その男は「明日、決算書と銀行通帳、会社のクレジットカード、あとは全ての契約書を持ってきてください」と言った。

そこで、次の日にまた男と会い、用意した提出物を渡し検証してもらったのだ。

決算書を見ながら男は「今井さん!全然大丈夫ですよ。この業務内容なら復活できます。」

弱ってる僕に、判断と決断の能力はもうない。ありがとうございます!とにかく、お願いします!!

男はこう言った。

「わかりました。ただ、一旦、銀行に全ての資産を担保として預けますので 少しだけ手数料が必要です。現金で2千万円だけ、ご用意をしてください。」

しかし、もう、僕には現金がなかった。それでもなんとかしようと、会社の使えるものや車を売却するなどして工面してみた。

だが、まだ足りない。

そこで、どうしてもやりたくなかったのだが、親や仲間に頭を下げて工面することにした。

父も母も、心から心配してくれ、僕に全財産を託してくれた。現金を手渡ししてくれる父の手が震えてたことを覚えている。

仲間たちも、心惜しみなく貸してくれ。ただただ僕は、頭を下げ御礼を言った。

そうして、数日後、何とか要望のお金を作り上げ、その男に連絡をしたのだ。

彼は、黒いBMWに乗って来た。車の中で契約をしようとなり、僕は、助手席に乗り、現金と会社の重要な物すべてを、男に渡した。

大量の札束を輪ゴムで止め、とても綺麗とは言えない紙袋に入れていたのだが、男は、そこから無造作に引っ張り出し、高速で数え始めたのだ。

お金を数えると「確認しました。では、手続きに入ります」男は、そう言って、僕を降ろし、その場を去っていった。

結果は、あなたのご想像通り。
これは詐欺である。

それどころか、クレジットカードも全額使われた。

全てここで資産も現金も消滅した。
さらに、新しい借金まで抱えたのである。

絶望的という言葉が的確にささり、神様から本気で見放されたような気がした。

この時、僕はGoogle検索ワードの入力部に「神様助けて!」と何度も何度も入力していた事を思い出す。


もちろん、今、この話をすると、なぜ、詐欺だと気がつかなかったのかとか、契約書もないのに渡す意味がわからないとか、よく言われるのだが、今の自分だったら完全に詐欺だと見抜ける。

こんなわかりやすい事でもわからなくなるのが怖い事なのだ。

もしあなたがトイレに行きたくて限界の時に、「500円で簡易トイレが使えますよ」とセールストークされたら、何も考えず支払うはず。

まったく、それと同じ心理。

人は切羽詰まると、判断基準が非常に狭まる。

今の精神状態なら絶対にわかる事でも、極限な心理になると人は、わからなくなってしまうものなのだ・・。



仲間に、親に、そして家族・・。下請け、支払先。

ごめんなさい。もう何もできません。

怒りと情けなさと恐怖と肉体的な苦しみが、全て同時に押し寄せて、総合的に憎しみに変わり

本気でその男を殺そうと考えはじめたのだった。

第4章へ続く・・・。

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請求書と裁判通知書の山

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