【第6章】デビュー

季節は冬の12月。かなり寒かった。
この過酷な条件がホームレス初日となる。

帰る場所がなく、つながらない携帯を持って、お金の入ってない財布を持つ。歩き慣れた道もまるで違う場所を歩いているかのようだった。

これほど、不思議な感覚は、過去にない。当たり前が当たり前でなくなった事にジワジワと絶望の現実を理解して行くのだ。

僕は、行く場所もなく薄暗くなった道をただ、ぼーっと歩いた。

すると、目の前に大きな音楽をガンガンにかけた車が横切った。その時、ハッ!と我に返り、代表取締役だったプライドがなぜか急に込み上げてきた。

「なぜ自分が徒歩で、あんな奴が車乗っているんだ!」と、異常なまでの嫉妬を覚え、追いかけて石を投げつけた記憶がある。

今考えたら本当に申し訳ない。当時は完全に情緒不安定、許していただきたい。


とにかく、寒くてお腹がすいて・・・。本当にどうしていいのかわからないのだが、申し訳無さすぎて誰にも会えないし、誰かに助けてほしいとも思えない。

生きていいのか、そんな価値が僕にあるのか、自問自答しながら、その日は、徹夜でコンビニをめぐり暖を取ってしのいだ。

お腹が空いたまま、コンビニで時間を潰すのは苦行である。
手を伸ばせば食べたいものが目の前にあるからだ。賞味期限切れでいいから譲ってもらえないかと交渉したい気持ちが込み上げてくるが、まだ最後のプライドが僕を引き止めていた。

次の日、近くのスーパーで暖をとった。
店内の海鮮コーナーは、氷の上に活きの良さそうなエビが並んでいた。

そのエビには、ルビー色の卵がついており、この卵を少し拝借するくらいなら泥棒ではないだろうと考え(泥棒です。すいません!)僕はその卵をつまんで、走り去った。そして、外に出ておもむろに食べた。

想像はしていたが、まったく、美味しくもなくお腹の足しになるほどではない。

そのまま、スーパーの裏側に移動した時だ、ダンボールの中にキャベツの葉を捨てていたのを発見した。「これは捨てている」と自分に言い訳を唱え、ダンボールごと拝借し、その日は、なんとか食いしのいだ。(多々深く反省しております。)

しかし、こんな事をしていても拉致があかないのは、自分でも理解している。

寒い、お腹すいた、布団で寝たい、風呂に入りたい、着替えたい・・いっそのこと死んでしまいたい。

そう思った時だ・・・。

目の前を背の小さな女性のホームレスがジャバジャバと音を立てて歩いている。

「すいません!!」

僕は、声をかけた。

第7章へ続く・・・。

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おばちゃんと出会ったスーパー

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